癌(がん)と発癌物質のニュースと解説

長寿社会の勝ち組となるには(その29)
FDAが狭心症治療ステントの抗がん剤コーティングに疑義

2019/03/19
最終更新:2026-09-12

抗悪性腫瘍に大きな需要がある抗がん剤タキソール(パクリタクセル)は狭心症に使用されるステントのコーティング剤(DES)の一つとしても広く普及しています。
タキソールは植物(西洋いちい:Taxus baccata)由来の抗がん剤ですが、悪性腫瘍治療に大きな成果をあげている反面、様々な強い副作用があります。
ここで取り上げたのはFDAがステントのコーティングに対する消費者と製造会社に対する公平、公正な姿勢です。
 最近の難病相手の医薬品は緊急の必要に迫られますから認可行政は見切り発車です。
市場に現れてから間もないものが多く、2-30年程度経過していれば長いほうですから、FDAと同じく病院や医師も重篤な副作用発生に責任をとることは出来ず、利用者の自己判断、自己責任に任せるしか方法がありません。

1. アメリカ食品医薬品局(FDA)の書簡2019年3月17日にアメリカ食品医薬品局(FDA)が心臓疾患専門医とその学問に関連を持つ分野の研究者に宛てた書簡が話題となっています。
「Treatment of Peripheral Arterial Disease with Paclitaxel-Coated Balloons and Paclitaxel-Eluting Stents Potentially Associated with Increased Mortality - Letter to Health Care Providers」
*(FDA:U.S. Food and Drug Administration)
内容は全米心臓協会誌2019年3月15日号に掲載された心臓血管治療に用いるバルーンカテーテルやステントの効能と安全性に関する研究です。

最近のステントは癌治療に使用される医薬品のパクリタキセル(Paclitaxel)でコートされた薬物溶出性ステント(DES:Drug Eluting Stent)が主流ですが、協会誌に掲載された研究は、その効能と安全性に疑義を持つ研究者らのメタアナリシスです。
 研究はパクリタキセルでコートされたバルーンカテーテル、パクリタキセル溶出ステントと、コートしていないものを較べたものですが、多くの調査でパクリタキセル溶出性ステントを使用した大腿膝窩動脈の冠動脈周辺疾患(PAD)患者の治療で長期死亡率が増加する可能性みられたとのこと。
 *大腿膝窩動脈(femoropopliteal)
*冠動脈周辺疾患(peripheral arterial disease:PAD)
*「メタアナリシス」とは、同様、類似なテーマで書かれた多数の論文を分析し、共通の実験結果を探りだす手法。2. パクリタキセルでコートされた機器の安全性これらのトライアル(研究)はいまだ進行中で、まだ初期段階ですが、5年間のデータを使った3つのトライアルではいずれもパクリタキセルでコートされた機器(paclitaxel-coated products)が、そうでないものに較べ死亡率が高かったそうです。
3つのトライアルの合計975例の内50%はパクリタキセルでコートされたステントの死亡率が高く、コートされたステントと、コートしていない裸のステントとの死亡者比率は5年間で20.1%対13.4%でした。
 もちろんこのデータはいくつかの理由で注意深く解釈する必要がありますこのデータはいくつかの理由で注意深く解釈する必要があります第一に「多様化しているリスクを少ないデータで長期とは言えない短期間で死亡率を概算することの是非」があります。
第二は「この研究はこのために蓄積されたデータで検討したものでは無いために、結果に大きな不確定要素をもたらします」
第三は「死亡率が高くなる特定の原因やメカニズムがいまだに不明」3. 暫定的なパクリタクセルでコートした機器の使用法パクリタクセルでコートしたバルーンとステントは血液が遮断された脚の血管の血流を改善し血栓の再発をも防ぐだろうと考えられていますがまだ長期的な安全性に関しては未知です。
(*タキソールはブリストルマイヤー社の特許合成法で作られてから治験期間を含めてもまだ30年弱。
他社の類似品タキソテールを含めて当然ながら長期間先の安全性は誰にも保証はできません。
抗癌剤のタキソールやタキソテールはすでに循環器系や腎臓、副腎、膵臓、肝臓など内臓疾患があるために使用できない人が珍しくないインフォームドコンセントが要求される劇薬です)
 FDAは認可した時の使用法で有益性がリスクに勝るかどうか決めるための追加分析をする準備をしておりコート済み機器(paclitaxel-coated products)の製造業者とも協議して総合的な有益性と有害性の調査評価を続けていますが、その間は一般的な患者にはコートしていない機器を使用する代替治療法のオプションを用意すべきと勧告。

コート済み機器の総合的な有益性と有害性(the overall benefit-risk)の調査報告が完結するまでは狭心症、心筋梗塞患者の健康状態、体質を詳細に検討して薬物溶出性ステント使用の可否を決めるとともに、患者の承認を得るインフォームド・コンセントが必要としています。4. FDAはコート済み機器の応用用途の可能性を調査中FDAは今後、これらコート済み機器を他の目的で使用しても安全か、そのメリットが害に勝るかどうかも分析して調査していきます。
例えば一次障害(de novo lesions)、ニ次障害(restenotic lesions)を受け作られた血管内の損傷組織が形成環状動脈に梗塞を与えることを防ぐ目的で使用されようとしています。
静動脈狭窄症(arteriovenous access stenosis)、糖尿病性重症下肢虚血(critical limb ischemia)、高い確率のリスクがある動脈や心臓弁などの再狭窄(restenosis)などに医師達がこの機器を使用することによって継続的にリスク以上のメリットを得られるかどうかです。
(the benefits continue to outweigh the risks)5. タキソールタキソールは米国の国家プロジェクトの一環としてタイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)から見出されましたがその後はやや原料調達が楽なヨーロッパイチイ (Europian yew:Taxus baccata)に変更されました。(北海道のイチイはオンコとも呼ばれる近似種:Taxus cuspidata)

樹皮より抽出された*ジテルペノイド(10-デアセチルバッカチンⅢ:10-deacetyl baccatins)が主成分。
タキソールは細胞の微小管(microtubule:マイクロチューブル)に結合し脱重合を阻害、正常な細胞分裂の進行を妨げるといわれます。
 *ジテルペノイド「性ホルモン、ステロイドを合成するトリテルぺンは植物成分のテルペノイド(terpenoid)」第5項https://botanicals.co.jp/library_view.php?library_num=180
 1994年にフロリダ州立大学のロバート・ホルトン (Robert A. Holton) が全合成。
天然だけでは原料調達ができないために1989年にホルトンにより半合成法が確立されました。
特許を買い取りタキソールを独占販売したのはブリストル・マイヤーズ・スクイブ社植物名のタキソールをそのまま商標としています。
日本では1997年に認可され、現在はジェネリックも販売されています。
乳がん、子宮ガン、肺ガン、肝臓ガン等、いろいろな部位の悪性腫瘍に使用されます。
絶頂期には年間約2,000億円を売り上げたといわれます。