厚生労働省検疫所は、インドの西ベンガル州コルカタ近郊でニパウイルス(Nipah virus) 感染症の発生が報告されたため、渡航者に下記の注意を呼びかけています。 「オオコウモリや中間宿主の豚との接触、生のナツメヤシ樹液、汚染された果物の摂取は避けてください。 発熱や脳炎を引き起こし致死率が非常に高いため、手洗いを徹底し、体調不良時は帰国時に申告が必要です」 コウモリが媒介するウィルス感染症には狂犬病、エボラ出血熱、二パウィルス(Nipah virus:別名ヘンドラウィルス)などが挙げられます。 注目すべきは熱帯地方に限定されていた、これらの猛毒感染症が温暖化により、北上が予想されていることです。 さらに、大規模な森林破壊が続いたことにより、コウモリが人間の生活圏と交錯するようになっていますがマレーシアで流行した時(下記アジアの二パを参照)などは多数の死者が続出しました。 古い話ですが森林破壊が続く南米ペルーのアマゾンに近い地域ではコウモリにより食肉牛1,000頭あたり4%が、狂犬病のリッサウィルスに感染しているという数字も報告されています。
1. コウモリから感染するアジアのニパウイルス(Nipah virus)こうもりを自然宿主とする感染症には、著名な狂犬病ウィルスの他に、ラブドウイルス科に近いパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)のニパウイルス(Nipah virus) があります。 古くは、バングラデシュ、マレーシアで多くの死者を出しており、豚を中間宿主とするため、豚からも感染することが多かったようです。 脳炎を起こす事はラビ―ウィルス(Rabies virus:狂犬病)に近い症状ですが、発生地域のニパ(Nipah)にちなんでニパウイルスと命名。 1998年から1999年にかけてマレーシアで発生し、1999年に新ウィルスとして同定されました。 この時の記録では、マレーシア・シンガポール両地域で257例の感染例を報告(うち100例が死亡)。 またバングラデシュ疫病研究所(the Institute of Epidemiology Disease Control and Research)やWHOは、2004年1月4日から2月8日までに、首都ダッカの近県で42件のニパ様ウイルス(Nipah-like virus)が発生し、14 名の感染者が死亡したことを報告。 WHOや米国CDCはこのウィルスを危険ウィルス(biohazardous agent )として位置づけ、感染各国が第1級の安全管理体制(biosecurity)をとることを求めています。
日本では2003年11月の改正法により、鳥インフルエンザ、サル痘、レピストラ感染症、
E型肝炎などと共に4類感染症に分類されました。 ニパウイルス(Nipah virus)の人への感染は1999年のマレーシアのケースにおいて、大部分の感染者が養豚場の従事者など、豚に接触する人であったため、豚が中間宿主として疑われました。 ニパウィルスはブタ(豚)の発症の場合は中枢神経組織、肺、腎を冒します。 人間の場合は発熱、頭痛に引き続き、脳炎、全身痙攣、呼吸不全、血圧低下によって死に至ります。 1999年の当初は、オーストラリアのヘンドラ・ウイルス(Hendra viruses)に類似しているといわれ、ヘンドラ様ウイルス(Hendra-like virus)と呼ばれていました。 遺伝子解析された後に、双方は同一のウィルスと呼べることが解明されたため、現在はニパウイルスに統一されています。 ヘンドラ・ウィルスは1994年にオーストラリアのヘンドラ地域で最初に発生したため、ヘンドラ・ウイルス(Hendra viruses)と名付けられていました。 感染者3名のうち、2名が死亡しています。 オーストラリアでバリナウイルス(Ballina virus) 、メナングルウイルス(Menangle virus)と呼ばれるものも同じウィルスといわれます。2.森林破壊で急増するコウモリ媒介の狂犬病ウィルス毎年アジア、アフリカでは5万9千人を超える死者が発生する狂犬病(ラビ―ウィルス:rabiesvirus)は発症すると死亡率100%(死者の半数は15歳以下)。 病原体はラブドウイルス科(Rhabdoviridae)のリッサウイルス(lyssavirus genus) 発生地はインドが多く、これまでは毎年30,000人近い死亡が報告されています。 リッサウィルス属(lyssavirus)の狂犬病(ラビ―ウィルス:リッサウィルス感染症)はコウモリが宿主といわれ、野生哺乳類や犬、猫などペットや家畜を経由して感染します。
2014年のエボラ出血熱流行は短期間で数十年分の死者が発生し、世界を驚かせましたが、原因ウィルスはやはりコウモリ由来。 ウマズラコオモリなどオオコウモリ(大蝙蝠)が自然宿主といわれます。 これまで熱帯林においては希少種のローランド・ゴリラやチンパンジーが被害を受けており、絶滅危惧の主原因といわれてきました。 狂犬病ウィルス(リッサウィルス:lyssavirus genus)自然宿主の蝙蝠(こうもり)の種類は哺乳類最大の1,000種を超えるといわれます。 中南米では小コウモリといわれる吸血コウモリ(バンパイア・バット:vampire bat)が最も一般的ですが、欧州では、ヨーロッパこうもり(Daubenton Bat, Myotis daubentonii)。 アフリカ、オーストラリア、フィリッピンなどでは大コウモリが主です。3.日本のリッサウィルス感染症(狂犬病)狂犬病(ラビーウィルス:rabiesvirus)は4類感染症。 狂犬病は一般にわかり易く伝えるための日本の通称ですから学名のリッサウィルス属に因んで、リッサウィルス感染症と呼んだ方が対外的に正確かもしれません。
1920年代に年間約3,500件の犬による狂犬病(ラビーウィルス:rabiesvirus) 感染がありましたが、1922年に家畜伝染病予防法が制定されてから激減。 1950年の狂犬病予防法による犬へのワクチン義務化以降は消滅したと見られています。 1970年に日本人が海外旅行先(ネパール)で感染死した例を除くと、1957年以降、2006年のフィリッピンのケース(下記)まで、輸入感染報告はありませんでした。4. 日本で死者がでた狂犬病(リッサウィルス感染症)はフィリッピン経由2006年11月17日に京都で60歳前後の男性が狂犬病で亡くなったことがありました。 直後の22日には横浜でも狂犬病感染者が発生し重態。 いずれもフィリッピンで犬に噛まれたことが原因ですが、犬はオオコウモリによってリッサウィルス属ラビーウィルスに感染した可能性が濃厚。 フィリッピンはオオコウモリの世界的な生息地ですが、オーストラリア由来のオーストラリア・コウモリ・リッサウィルス(Australian bat lyssavirus)侵入が報告されていました。
数年来、アマゾン、オーストラリアなど森林開発が続く大陸では、吸血コウモリによるリッサウィルス感染症が広がっていますが、島国のフィリッピンも例外ではありません。 希少種を含めた多種類のオオコウモリが生息するフィィッピンのネグロス島(Negros), パナイ島(Panay)では森林破壊が96%になるそうです。 ネグロス島, パナイ島はフィリッピンでも4番目、6番目の面積。 砂糖産業の中心地ですが、農業振興のために森林を伐採。 自然環境の変化では、コウモリに限らず、住まいを狭められ、移動を余儀なくされた動物による住民の被害、が拡大しています。 森林破壊により人獣共通ウィルス(ズーノティック・ウィルス:zoonotic virus)の脅威が身近になったわけです。5.ペットブームと狂犬病(リッサウィルス感染症)日本はペットブームで様々な動物が飼育されていますが、リッサウィルスは野生動物ばかりでなくウィルス感染した猫などのペット経由でも感染します。 日本では、まだ蝙蝠(こうもり)由来の狂犬病の報告はありませんが、日本にもオオコウモリが生息しますからペットには十分に注意すべきでしょう。
京都の狂犬病死者発生直後、早朝テレビ番組(2006年11月23日)では世界の狂犬病蔓延を取り上げていました。 番組ではオーストラリアとノルウェーを安全地帯としていましたが、少なくともオーストラリアはオオコウモリの生息地。 広義のリッサウィルス(Australian bat lyssavirus)感染では、クイーンズランド州などで死者がでています。 狂犬病とは呼んでいませんが同じことであり、日本は決して安全地帯ではありません。 狂犬病のラビーウィルスは宿主のコウモリにより直接、間接に人間に感染します。 唾液で感染しますからペットや家畜の扱いは慎重にしたいものです。6.リッサウィルス感染症(狂犬病)の原因ウィルスは7種類リッサウィルス感染症の原因ウィルスにはラブドウイルス科(Rhabdoviridae) リッサウイルス属(lyssavirus genus)に属する7種のタイプ(Genotype)が同定されています。
A) ラビーウィルス(rabiesvirus) 狂犬病と通称されてきたリッサウイルス属ラビーウィルス(rabiesvirus)は砲弾型(bullet)のリボ核酸(RNA)ウィルス。 1- 3ヶ月(稀には1年のケースがあるそうです)の潜伏期間で発症。 発熱、頭痛、筋痛痛、脳炎症状などを呈し、錯乱、幻覚などから昏睡状態に陥ります。 発病すると致死率100%といわれています。 B) Lagos bat virus,C) Mokola virus,D) Duvenhage virus,E) European bat lyssavirus type 1,F) European bat lyssavirus type 2,G) Australian bat lyssavirusラビーウィルス:rabiesvirus)は感染後でも、潜伏期間中にワクチンを繰り返し投与すれば、発病を防ぐことが出来ます。 感染疑いがある場合は、病院において早期発見することが重要です。7.ブラジルの吸血こうもり(バンパイア・バット)とラビーウィルスブラジルでは2004年3月から4月にかけて、中南米に近いアマゾン地域、アマゾーニャ(Amazônia)に属する州(ブラジル北部)のパラー州(パラ州:Para)で吸血こうもりが異常発生し、吸血された13人がラビーウィルス(rabiesvirus:通称:狂犬病)で死亡した事件がありました。 吸血こうもりは中南米各国に広く分布。 これまでも家畜などにラビーウィルス(rabiesvirus)による被害を与えています。 一般的には大きな群生は少なく、人間を襲うことは稀だそうですが、人間の生活圏での襲撃は環境破壊の影響ではないかと懸念されています。 ブラジルでは多種類の吸血こうもり類が発見されています。 A) 吸血コウモリ(Common vampire bat) (Desmodus rotundus) B) ブラジルオナシコウモリ(brasilian free-tailed bat:Tadarida brasiliensis) C) ヴェネゼラ吸血こうもり(Venezuela vampire bat) ヴェネゼラ原産といわれる種類(パスツール研究所では種類を公表していないので推定) D) シロゲ(ハクハツ)コウモリ(hoary bat:Lasiurus cinereus)。 E) ケンサキバナ(剣先鼻)コウモリ(Sword-nosed Bats:Lonchorhina aurita、Lonchorhina fernandezi) *こうもりの和訳は筆者が推測した仮訳。8.オオコウモリとは:コウモリ目オオコウモリ亜目(Megachiroptera)地球上の哺乳類4000種類のうち1000種類をこうもり目(翼手目)が占めます。 こうもりの分類は混乱してきた歴史があり、大きさのみが亜目の分類とはなっていませんが、熱帯雨林、亜熱帯に分布するコウモリ目(Chiroptera)は大別してオオコウモリ(大蝙蝠)、ショウコウモリ(小蝙蝠)の二つに分けられます。 オオコウモリ亜目(Megachiroptera)は約 200 種オオコウモリ(Megachiroptera)は視力を有し、果実、花を好みます。 熱帯雨林に生息し、習性は一夫多妻のグループ(camps)を作るか、群生(colonies)します。 オオコウモリの大きさは、体長50mm-400mm、体重15gから、最大1.5kg位、翼を開くと、最大170cmを超える種類があります。9.オオコウモリ亜目の主役はフルーツ・バット(fruit bat)オオコウモリ亜目、Pteropodidae科。 フルーツ・バット(fruit bat:Old World fruits bat)は42属、173種が分類されています。 おおこうもり類は熱帯雨林、亜熱帯の植物が結実するのに、重要不可欠な生物。 バナナ、マンゴー、ガヴァ、ジャックフルーツ、デーツ、カシューなど多くの植物の受粉(pollinate、seed dispersal)はオオコウモリによってなされます。 これがフルーツ・バットと呼ばれる由縁。 フィリッピンなど、地域によっては食用とされる種類もあり、ペットとして世界中に愛好者がいます。 フルーツ・バットは狐に顔が似ているためにフライング・フォックス(flying foxes)とも呼ばれ、混同されることがありますが、正式なフライング・フォックスは分類上Pteropodidae科のもう一つのグループを指します。 フライング・フォックスにはOtopteropus属1種類、Pteropus属59種類が分類されています。 オオコウモリ亜目のほとんどの種類の俗名には、セレベスコバナフルーツコウモリ、ジャワオナシフルーツコウモリなど生息地の名前が付けられています。10.超音波を発するのはコウモリ目ショウコウモリ亜目(Microchiroptera)ショウコウモリ亜目(Microchiroptera)は約800種洞窟などに生息し、樹木のある場所なら何処にでも分布します。 ショウコウモリ亜目には視力がありません。 超音波を発信して飛行(エコーロケーション)(echolocation)するために、発信器の鼻は特殊な形をしており、耳が大きいのが特徴。 昆虫、魚などの捕食、哺乳動物からの吸血で生活します。 種類も多く、物語に登場するこうもりは、ほとんどがこの小コウモリ亜目の種類を指しています。11.ショウコウモリ亜目の主役は吸血こうもり(vampire bat)吸血こうもり(バンパイア・バット:vampire bat)は熱帯、亜熱帯に広く分布するフルーツバットと異なり、目が見えない、ショウコウモリ亜目Phyllostomidae科に属します。 (Desmodonitidae科という説もある)体長は2.7 - 3.5 インチ(1インチ=2.54cm)、体重。5 - 1.8 オンス(1オンス=28.35グラム)、1メートルくらいの低空飛行が習性。
中南米原産。森林、都市部に生息。吸血こうもりは3種類が知られています。 リッサウィルス感染症の一つであるラビーウィルス(rabiesvirus:通称:狂犬病) は吸血こうもり以外の種類からも検出されることもあります。 サンパウロのパスツール研究所(Pasteur Institute)では、ラビ―ウィルスに陽性を示す吸血こうもりを数種類特定しています(2000年までの調査)。 *吸血こうもりの唾液(saliva)は血液凝固防止に働き、吸血を容易にしますが、この成分を脳卒中の予防に研究しているグループがあるようです。 この類の感染にはレベトロンの投与が有効とされています。
WHOより発表されたニパウイルス宿主の大コウモリ(種類は不明)の生息地域はオーストラリア、インドネシア、マレーシア、フィリッピン、一部の太平洋諸島。
*ブドウレスベラトロールが防御する微生物感染症:免疫細胞強化ペプチドのカテリシジンを活性化 レスべの詳細はこちら天然のブドウレスべラトロールは白血球内抗微生物蛋白カテリシジンを活性化します。12.ニパウイルス(Nipah virus) とレベトロンレベトロン(Rebetron Combination Pak)はリバビリン(Ribavirin)とインターフェロンα-2bの合剤。 シェリング・プラウ社 (Schering-PloughPharmaceuticals)が発売。 この医薬品は主としてC型肝炎、ラッサ熱などの熱帯性脳炎、インフルエンザ、髄膜炎、ウェストナイルウィルスなどに使用されています(2009年)。 リバビリン(Ribavirin)は1972年ごろ、ダービン社(B&S Durbin社:英国)により開発された抗ウィルス剤。 構造は(1-β-D-ribofuranosyl-1H-1,2,4-tri-azole-3-carboxamide C8H12N4O5)。 単独での効果は疑問視され、1990年代ごろより、インターフェロンα-2b との合剤が研究されてきました。 1998年には、米国でインターフェロンとの合剤レベトロンが極めて効果的であるとの、大規模な治験報告がなされました。
*(参考) 2014年から西アフリカで急増しているエボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever)。 2014年8月中旬で感染者2,000人、死者が1,100人を超えましたがこれは当時の医療機関が関与した数字。 実際には氷山の一角でした。 死亡者が1万名を超えた2015年になり、治験中のワクチンに効果があり西アフリカ3国内に封じ込めることに成功。 収束に向かいましたが、まだまだ予断は許されないようです。 2015年9月になって完治したと思われたスコットランドの女性看護師が再発。 完治診断の感染者を再調査したところ、ほとんどにウィルスが長期間生存していた、(いる)ことが判明。 踏み込んだ再調査が実施されていますが、関係者はエボラ・ウィルスの強靭さに改めて警戒を強めています。 *2014年9月末:感染者7,000人強、死亡者4,000人弱. *2015年10月28日:感染者28,000人強、死亡者11,000人強(WHO)
初版:2004年4月改訂版:2006年11月改訂版:2014年08月改訂版:2015年10月
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