トランス脂肪酸のニュースと解説

欧米企業のトランス脂肪酸フリー食用油とパームオイルの安全性

2015/03/27
最終更新:2026-09-13

(一部の記事は過去に掲載されたものが編集されています)
1.ニューヨーク市のトランス脂肪酸規制とは日本では相変わらずトランス脂肪酸含有食用油が野放しですがその規制には非常な困難が伴います。
10年前に世界の都、ニューヨークでこの困難を乗り越えようとした事例があります。
全米でトランス脂肪酸の含有量を表示する義務が生じたのは2006.1.1。
同年12月5日にはニューヨーク市が独自に新たな規制を発表し全米、全世界で食品関連のトップニュースとなりました。
ニューヨーク市の規制は、食の安全を守る連邦のFDAが、表示義務の施行にとどまり、その後の対応が遅れていることに一石を投じたものと当時はいわれていました。
規制内容はレストラン・メニューに、トランス酸含有量の上限(一食当たり0.5グラム)を設けたもの。
規制は2007年の7月まで猶予されましたが、この制限量はそれまでの基準を大幅に下回り、、実際には禁止(ban)といえる量。
規制対象はレストランで使用する調理用、調味用の食用油、マーガリン、ショートニングなど。
2008年7月までには、対象がパンなど全ての食品に拡げ、違反には罰金で臨む予定でした。
当初から低所得層を救済する意図から、食品メーカーによるパーケージ商品を提供する外食堂は規制の対象外でしたが、例外規定範囲は広がるばかり。
結局は代替食用油脂、油の供給不足、コスト高に直面し、次第に先細っていきました。
2013年に引退した当時のブルームバーグ市長(Michael Bloomberg)は公開ダイエットをするなど、保健問題に関心が高く、2003年にはレストランや公共の場所から喫煙を追放したことで知られています。
ただし彼が規制しようとした背景には、市場寡占を狙う遺伝子組み換え農産物開発企業や、乳製品製造企業のロビー活動が見え隠れするだけに、実際の背景は不明です。2. 苦悩する連邦の食品医薬品局(FDA)永年この問題に取り組んできた米国の行政機関(FDA)は、90年代後半にはトランス脂肪が悪玉コレステロールを増やし、心臓、血管病や肥満の根源になることを確認しています。
禁止の方向性は2003年には決定していましたが、米国では代替商品の開発が難航しており、FDAも新たな規制に踏み切れませんでした。
開発されていた新商品は未熟であるという認識とトランス脂肪酸の規制は特定の企業を利するだけということがあったからです加工食品の約40%は食用油を使用しており、禁止に近い規制を加えれば全米の食品業界が混乱します。
特に寡占によりコスト高になることは、低所得層の食生活を直撃する問題となりますから厄介です。
ブルームバーグ市長の規制に対し、当然のことながらニューヨーク市のレストラン業者は猛反発。
国の行政機関であるFDAが許可しているものを、地方行政が禁止することには納得できないとするものでした。
FDAの遅々とした対応の実情は、連邦レベルで即刻規制することは、あまりに混乱が大きいということでした。3. 日本はトランス脂肪の追放が可能か?日本で和食だけで生活している人は稀ですから、トランス脂肪の有害性は日本人にも深刻な影響があります。
欧米に較べて政府、行政、食品業界の対応が遅れているだけに、現在でも規制が全く出来ていないのが実情です。
日本人はトランス脂肪の摂食が欧米人と較べて少ないとの仮説もありますが、規制が全くないだけに、中高の所得層に限れば、欧米人よりトランス脂肪酸の摂食量が多いといえます。
日本でアメリカ式朝食を摂る人、料理にマーガリンを使用する人、パン、ケーキ、クッキーなどを好む人、ファーストフードを利用する人々は、この幾つかが重なるとトランス脂肪酸の摂食量は一日15グラムをはるかに超えるといわれます。
欧州は早くからトランス脂肪酸への関心が高く、研究も進んでいますから、不飽和脂肪酸の調理油や加工食品用油に含まれるトランス脂肪は米国、日本ほど多くはありません。
EUのケンタッキー・フライドチキンやマクドナルドが使用する調理用油のトランス脂肪は米国で使用されている油の半分から4分の1くらいとの調査があります。
特にスペインは5%、デンマーク、ドイツは1%と言われます。
現在の米国ファーストフードのトランス脂肪は一食当たり10%以内といわれますが、規制前までは23-24%くらいだったそうです。
日本人の日常の食事はアメリカ式朝食ならば、総脂肪摂取量は60グラムにはなりますから、総脂肪量の大部分がパームオイルなどの飽和脂肪に代替された場合、飽和脂肪酸の理想的な摂取量と言われる33グラムを大幅に超過します。
有害性が遅効とはいえ、肥満、心臓障害など日本人の健康に大きな損害を与えていますが、法による規制は低所得層を直撃する問題だけに解決は簡単ではありません。

日本でトランス脂肪酸を調理用油から追放するには欧米以上の困難があります。
なぜならば日本では穀物、野菜の遺伝子組み換え食品(GM食品)が受け入れられないからです。
米国が主流のトランス脂肪レス調味用油は遺伝子組み換えによる菜種(キャノーラ)や大豆です。
伝統的な天然の生絞り植物油は低所得層には難しい選択肢だからです。
日本人も実際にはファーストフードやレストランなどの外食や、醤油、味噌などの加工品で、組み換え食品をかなりの摂食をしており、キャノーラ油も遺伝子組み換えの菜種油ですが、ヨーロッパや日本の農業では、遺伝子組み換え農産物の栽培例がほとんどなく、国民性にマッチしていません。
フランスや日本では「遺伝子組み換え農畜産物の有害性は遅効性であり数十年、または世代を超えて相続される」という説が有力だからです。
スーパー(グローサリー)で販売される食品の70%に遺伝子組み換え農産物(GM)が混入している米国と、それほどではない日本では遺伝子組み換えの代替品受け入れに大きな温度差があるわけです。
パン、ケーキ、クッキー、スナック、マーガリンなどの加工食品用に関しては、日本でもパームオイル(ヤシ油)が主流。
コストが高くなることはありませんから、全ての所得層を満足させますが、飽和脂肪酸過剰摂取、発がん性の問題が残り、将来は新たな火種となることが間違いないでしょう。4. 市場の寡占化を窺う多国籍企業米国食品業界のトランス脂肪追放策はオレイン酸含有を増やした遺伝子組み換え食用油(GM)とパーム油など飽和脂肪酸の使用が主流。
オレイン酸の含有量を大量に増やした品種の開発は、高温加熱で発生するトランス脂肪が、米胚芽油やオリーブオイルでは少ないのがヒントになっています。
調理用油の開発は多国籍企業による遺伝子組み換えの菜種油、ヒマワリ油、大豆油が主流となり、この段階で規制が強化されれば多国籍企業の寡占化が進むだけ。
加工食品用のショートニング、マーガリンなどは、飽和脂肪酸のパーム油(ヤシ油)が主流です。5. 遺伝子組み換えトランス脂肪フリーの食用油ナトレオン・キャノーラ(Natreon canola oil)
ダウ・アグロサイエンス社(Dow AgroSciences)が2004年6月に発表。
低飽和脂肪酸を謳う。
オレイン酸含有率は70%。
カナダのキャンブラ・フーズ(Canbra Foods)などが販売している。

インビゴー・キャノーラ(InVigor canola oil)
バイエル・クロップ・サイエンス社(Bayer CropScience)が開発を続けているトランス脂肪フリーの新種キャノーラのライン。
オレイン酸含有率は不明。食品大手のカーギル社(Cargill)が提携している。
ダウとの特許係争で一躍有名になった。

ヴィスティブ(ヴィスティブ)(Vistive soybeans oil)
モンサント社が加工食品業のアーチャー・ダニエル・ミッドランド(Archer Daniels Midland :ADM)と開発した低リノレイン酸遺伝子組み換え大豆油。
モンサントは遺伝子組み換え農産品開発の最大手。
トランス脂肪含有率は通常の大豆油の8%から3%になっているといわれる。
この商品はケロッグが提携している。

ンズ・トランス(SansTrans RS39 T20)
ローデルス・クロックラーン社(Loders Croklaan)が開発したパーム油とキャノーラ油のミックス商品。
マーガリンやショートニング用。
一般の飽和脂肪酸より脂肪分が30%は少ない利点があるという。
一部にキャノーラ油を使用するために少量のトランス脂肪が含まれるといわれます。
ローデルス・クロックラーン社はユニリーバ(ユニレバー:オランダ)の子会社ですが、マレーシアの多国籍企業アイ・オー・アイ(IOI group)に売却されて、パームオイル市場を支配するようになりました。
世界のパームオイル総生産量は3000万トン/2004から5600万トン弱/2013年となり、植物性食用油世界総生産1億6000万トン強/2013年の30%以上を占めます。
これは大豆4.200万トン強/2013年を追い越して、世界第1位の生産量となります。
大豆が首位を譲ったのは2006年ごろです。

パームオイル生産はインドネシアの3,000万トン/2014年が世界最大。
マレーシアが2,000万トン弱/2014年で第2位。
10年前の2004年はマレーシアの1400万トンが世界最大で、インドネシアの1100万トンがそれに次ぐ生産量でした。
両国で85%を占めますからプランテーションの造成、廃棄物の増大など自然破壊を引き起こし、森林破壊、希少動物絶滅危機(オランウータンなど)など、新たな摩擦を引き起こしています。
マレーシアのアイ・オー・アイ(IOI group)が著名な多国籍企業で、一時はユニリーバの傘下であったローデルス・クロックラーン社(Loders Croklaan)を買収しています。

パームオイルの2004年の平均値段は340米ドル/トンであり、大豆の470米ドル/トン、生産量第3位の菜種(遺伝子組み換えのキャノーラを含む世界の総生産量1500万トン)の666米ドル/トンに較べてはるかに安価な油でした。
その後価格は上がり続け2010年の750ドル前後から2011年初には1,200ドル超えになりましたが2012年ごろからは下がり始め2015年現在は600ドル近辺まで下落しています.
寡占化しているだけに競合が少なくなると価格操作が激しい業界です.6.パームオイル(palm oil)が加工食品用油の決め手なのか?パームオイルのパルミチン酸(Palmitic Acid)とその固形断片のステアリン酸はエステル交換固形物を自然に得ることができます。
発がん性*など多くの問題点を残しながらも世界の代替品市場はパーム・オイルが増えてきました。
しかしながら、誰もが単純に飽和脂肪酸に置き換えることに疑問を持っています。
カナダのマーガリンにはパームオイル以外に、カノーラオイルとパーム心髄オイル(palm kernel oil)を混合したエステル交換固形物を混入した製品があります。
また、ユニリバー(ユニレバー)社が1991年に開発したマーガリンの人気商品「I  Can’t Believe It’s Not Butter」(これがマーガリンなんて、信じられない !!)は不飽和脂肪酸も使用しているためにトランス脂肪が含まれますが(サンズ・トランスを使用していると思われる)、規制内(0.5gm)のトランス脂肪酸含有量のためにトランス脂肪フリーを謳っています。
*花王のエコナで話題となった発ガン性物質3-MCPDの含有
3-MCPDは多種類の食品に含有されているといわれますが、天然の植物性油脂に多く存在し、パーム油の含有量が特に多いのが特徴です。7.オレオマーガリン(oleo-margarin)獣脂から採った油のタロー(tallow)を圧縮して作るのがオレオ油(oleo oil)。
常温では固形で、融点は摂氏40度以上。
オレイン酸を40%近く含有します。
マーガリン、化粧石鹸、潤滑油、化粧品など、多様な用途があります。
多国籍総合食品会社のクラフト(Kraft)が、1930年代よりオレオマーガリン(oleo-margarin)を生産。
現在はマーガリンのブランドは見当たりませんが、OREOと命名したスナック菓子が売られています。
クラフトの現在のオレオ(OREO)がオレオ油を使用しているか、植物性油かは不明。
オレオ油は飽和脂肪酸ですから、トランス脂肪の発生はありませんが、他の油をミックスした製品にはトランス酸が含まれる可能性があります。
オレオ油の成分は中性脂肪主成分のトリグリセライド(triglyceride)やグリースと同様。
BSE騒ぎでは狂牛病の感染媒体とも言われましたので、安全性の意味ではオレオ油の今後の動向を注視する必要があります。8 . エステル交換技術(インターエステリフィケーション)EUでは遺伝子組み換え食品を拒絶していますから、植物性脂肪のエステル交換(interesterification)製品が主流。
エステル交換は、油が酵素や酸により固形化し、構造変化することに関連する技術です。
具体的に言えば、油の脂肪酸成分が他の有機物群と相互結合してエステル化します。
マーガリン、ショートニングはトランス脂肪を生ずる水素添加化合(hydrogenation)によって食用油を安定させますが、酵素によるエステル交換によっても油に希望する機能と安定性を与えることが出来ます。
脂肪や油の自然的、化学的なエステル交換の促進過程は、酵素やその他技術の他動的なエステル交換より、はるかに安上がりな応用技術ですが、退色する難点があり、余分な工程が必要とも言われています。
工業的なエステル交換は酵素を使います。
酵素は、脂質の消化酵素である天然のリパーゼを使用するケースが多く、ノボザイムズ(Novozymes)(デンマーク)の酵素(Lipozyme TL IM)が技術的にリードしているようです。9. キャノーラ・オイルをエステル化したマーガリン、ベネコール(BENECOL)ベネコールはマックネイル・ニュートリショナル(McNeil Nutritionals, LLC)(ジョンソン・アンド・ジョンソンの栄養化学部門)から、栄養食品として販売されています。
ベネコールの主原料は樹皮成分やキャノーラ油をエステル化したもので、マーガリン様スプレッド(脂肪分が少ない)となっています。トランス酸はフリー(少量?)と公称しています。
ベネコールには悪玉コレステロール値を下げるというスタノール・エステル(Plant Stanol Esters)が添加されて販売されています。
スタノールは哺乳類のコレステロールに相当する植物性ステロールの飽和型成分。
植物性ステロール同様にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させる成分といわれ、少量ですが多くの野菜などに含まれています。
スタノールあh1995年にフィンランドのイングヴァー・ウェステル(Ingvar Wester)が開発しました。
ユニリバーから類似商品のフローラ・マーガリン(Flora pro-activ)が販売されています。10. エステル交換(interesterification)食品の表示義務FDAは昨年、ラベル表示の分類について重要な通達を出しました。エステル交換脂肪で、20%を超えるステアリン酸を含むものは、ラベルに「高ステアリン酸」または「ステアリン酸高含有」表示とともに、「エステル交換大豆油」などと記載しなければならないということです。
ステアリン酸、オレイン酸などには動物実験で発がん性の報告があり、安全量限度がまだ不明ですから、消費者が選択できるよう、表示を必要とするということでしょう。11. トランスファットフリーとは米国で使用され始めた業界言葉です。本来フリーとはゼロを指すことが多いのですが、この場合は許容量以下を意味します。
トランス脂肪酸は非常に有害であるということが確定的になってきているために、本来は許容量の基準というものは存在しません。
米国では暫定的な許容量として、脂肪分14グラム(一般的な一食の摂取量)に対し500mg以下の摂食を許容の基準にしています。
これ以下の場合はトランスファットフリーという表現が使われます。
米国以外の先進国も、食品のトランス脂肪含有量の表示が義務化されていくでしょうが、これは消費者に選択肢を与えるという意味しかありません。
食品業界が対応できるようになるまでは、使用を禁止することは不可能だからです。
使用を禁止したといわれるデンマークでさえ、一日2グラムという寛容範囲がありますトランス脂肪酸に安全な基準は有り得ません。
肥満、生活習慣病、アトピーなどの厄介な疾病の大きな原因であることを考えると、一日も早くトランス脂肪は追放しなければなりません。

初版:2006年12月11日改訂:2013年6月改訂:2015年3月(一部)